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2024年6月15日

2023年度実証検証レポート④「南部鉄器熟練職人の思考を再現するAI活用実証事業」


南部鉄器の熟練職人の思考をAIで再現。

伝統工芸の現場で、熟練職人の思考モデルを構築し、職人育成に役立てる。
南部鉄器は、職人の手仕事により美しい模様や高品質の製品が創り出されています。
一方で手仕事による課題もあり、その中の一つが職人の育成です。
通常、 南部鉄器の職人は師匠が作業をする姿を目で見て技術を習得していきます。
また、言語化するのが難しい工程も多く、伝わりにくさから中々技術が継承されないこともあります。
そこで、熟練職人の思考をベースに、様々な製造工程のキーワードから関連するもの同士を結び付け、 熟練職人の思考を再現するAIを構築。
製造工程について AIに尋ねると、 熟練職人がそのキーワードから何を考えるのかを知ることができ、 職人育成での活用が期待できます。

 

手仕事の良さがある南部鉄器
タヤマスタジオ株式会社が手掛ける南部鉄器は、 鋳造という方法で製造します。
川の砂で鋳型を作り、そこに溶かした金属を流し込む製造方法です。
一般的に製造業で生産性向上を目指す場合、材料や作業の標準化を行い、 人が関わる部分を減らし機械化していきます。
しかし、 南部鉄器の細かい模様や高い品質は、手仕事だからこそできるものであり、 材料も自然のものであることから、ほぼ標準化が進んでいません。
例えば3Dプリンターで鋳型のようなものを作ることはできますが、 細かい段差ができ、 その段差を取り除くのが容易ではありません。
職人による手仕事だからこそ、 美しく高品質な南部鉄器が創り出されるのです。

 

職人育成の課題
職人の手仕事により、 質の高い製品が創り出される南部鉄器の世界ですが、 手仕事であることによる課題もあります。
その中の一つが職人育成です。
師匠となる先輩職人が、 若手職人にOJTで製造方法を教えます。
始めは一つの工程を1~2年ほどかけて習得していきますが、 南部鉄器の製造工程は100前後に上り、 戦力化するまでに時間がかかります。
師匠となる先輩職人も教えている間は生産が止まり、 経営的にも問題があります。
また、教え方も師匠の作業を見て覚えるスタイル。
そもそも言語化が難しい工程もあり、 手に付く粘り気を製造の指標にしていたりします。
このような教え方は、教わる若手職人側も分かりにくく、 中々成長できません。

 

AIにより熟練職人の思考を再現
職人育成での活用を目指す職人育成を効率化させるために、 熟練職人の思考を再現するAIを構築します。
熟練職人にヒアリングをしながらAIのモデルを構築し、更に工学的知見も盛り込みます。 言語化できていない事項を工学的に補足していきます。
構築されたAIは、熟練職人の思考をベースに、 様々な製造工程のキーワードを関連するもの同士で結び付けます。
若手職人が、 あるキーワードをAIに尋ねると、 熟練職人がそのキーワードから何を考えるのかを返すことができます。
例えば、 南部鉄器の製造中に発生した不具合についてAIに尋ねれば、 原因を知ることができます。
この現象が起きたら、 どのようなことを注意する必要があるのかなど、AIを使うことで若手職人が自己学習を行うことが可能になります。
また、熟練職人の思考をAIを通じて知ることができるのは、製造方法を改善することにもつながります。
AIを活用し、製造時の注意点やより良いやり方が分かれば、歩留まりを高めることができます。

 

若手職人がAIを活用し鋳造の不具合の原因を考える
今回タヤマスタジオ株式会社の若手職人を対象として、鋳造の不具合発生時にAIを活用する実証実験を行いました。
師匠に尋ねなくても、 自主的にトラブルシューティングができるかを検証します。
AIを参考に若手職人が自分なりの原因を考え、 師匠と相談する姿が見受けられました。
つまり、 AIが師匠と若手職人を仲介する中堅層の役割も果たすことがわかりました。
ゼロベースで師匠に尋ねるのではなく、AIと相談し答えに近づいた状態で師匠と会話でき、 円滑にコミュニケーションが図られ、師匠の手が止まる時間も削減されることが確認できました。

 

事業に対する思い
タヤマスタジオ株式会社 代表取締役 田山貴紘様
今回、 若手職人がAIを使い独力で不具合に向き合うことができました。
自分なりの答えを持った状態で師匠と会話したことで、円滑な指導がなされたと感じています。
また、 熟練職人の思考を再現するAIは、 技術のアーカイプにもなります。
伝統工芸は、 職人不足による技術喪失の危機感があります。
万が一技術が喪失しても、AIで技術を復活することもできます。
伝統工芸というアナログな世界でもDXを進めることは、生産性向上、人材育成、販売力強化、 技術継承など、 様々な効果が期待され、 今後も積極的に推進していくつもりです。